赤城乳業の「黒歴史」から12年。伝説の奇食が今になってSNSで再評価される奇妙な理由
ガリガリ 君 ナポリタン 味。この悪夢のようなフレーバーが発売され、日本中を震撼させてから12年が経過した。2014年当時、赤城乳業が約3億円の赤字を出してまで世に送り出したこの「伝説の失敗作」が、2026年の今、なぜかTikTokやX(旧Twitter)で再びトレンドの最前線に浮上している。当時のトラウマを語る大人たちと、それを「未知のエンタメ」として面白がるZ世代。ネット上は奇妙な熱気に包まれている。
きっかけは、ある海外の人気YouTuberが日本の珍味を紹介する動画の中で、この商品を「史上最もクレイジーなアイス」として取り上げたことだった。これを機に、国内でもガリガリ 君 ナポリタン 味の存在を知らない若い世代の間で、「一度でいいから食べてみたかった」「復刻してほしい」という無謀な声が上がり始めている。
3億円の赤字を叩き出した「狂気」の歴史

時計の針を2014年に戻そう。赤城乳業は当時、前々年に発売して大ヒットを記録した「コーンポタージュ味」、それに続く「シチュー味」の成功に沸いていた。この成功体験が、開発チームのブレーキを壊した。「次はナポリタンだ」。そう意気込んで開発された商品は、トマトゼリーを混ぜ込み、ナポリタンの風味を忠実に再現したかき氷だった。しかし、消費者の反応は冷酷だった。一口食べて絶句する人々。売り場には山積みの在庫。結果として、同社に3億円以上の損失をもたらす大惨事となったのだ。
なぜ今?2026年に巻き起こる「奇食レトロ」ブーム

ブームは突然やってくる。2026年の現在、若者たちの間では「平成レトロ」に続くコンテンツとして、2010年代前半の「ネットの黒歴史」を掘り起こす動きが活発だ。彼らにとって、このアイスは単なる食品ではない。かつてネット住民がこぞってレビューし、お祭り騒ぎを起こした「文化遺産」なのだ。SNSでは、当時のパッケージ画像やレビュー動画がリマスターされ、数百万回再生を記録している。
開発者が語っていた「本気すぎる」こだわりと誤算

この商品の最大の悲劇は、開発陣が「本気」だったことにある。ウケ狙いのジョークグッズではなかったのだ。玉ねぎの風味、ケチャップの甘酸っぱさ、そしてピーマンの微かな苦味まで再現しようと試行錯誤を重ねた。だが、冷たい氷とナポリタンの油分は決定的に相性が悪かった。口の中で分離する脂っぽさと、冷やされたケチャップ味。本気で美味しさを追求した結果、誰にも受け入れられない怪物が誕生してしまった。
フリマアプリで高騰する「未開封パッケージ」の謎
この再評価の波に乗るように、メルカリなどのフリマアプリでは奇妙な現象が起きている。当時、ネタとして購入され、冷凍庫の奥底に眠っていたと思われる「未開封のパッケージ」が、コレクターズアイテムとして出品されているのだ。もちろん食用ではない。しかし、当時の狂気を証明する歴史的資料として、数千円の値がつくこともあるという。もはや現代アートの領域だ。
赤城乳業の沈黙と、ファンが期待する「リベンジ」の可能性
再ブームを受け、世間の関心は「復刻はあるのか」という一点に集まっている。しかし、赤城乳業側は静観の構えを崩していない。かつて社長を含めた役員たちがテレビCMで深々と頭を下げ、値上げの謝罪とともにナポリタン味の失敗を自虐的に振り返った同社だ。二の足を踏むのは当然だろう。だが、業界関係者の間では「2026年のエイプリルフールや特別イベントで、数量限定の『リベンジ版』が出るのではないか」との噂も囁かれている。
私たちは「まずい」という体験を消費している
現代の消費者は、単に美味しいものを求めているわけではない。特にSNS時代においては、「まずい」「面白い」「あり得ない」という感情の揺さぶられ方こそが、最大の娯楽となる。ガリガリ君のナポリタン味は、その究極の形だった。私たちは今、12年前の失敗を懐かしんでいるのではない。あの頃の、ネット全体がバカげた挑戦に一喜一憂していた「熱量」を、もう一度味わいたいだけなのかもしれない。 (出典: ガリガリ 君 ナポリタン 味(Yahoo!ニュース))